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胃潰瘍

胃潰瘍

胃潰瘍とは

胃内に分泌される強い酸である胃酸により、胃の粘膜の一部が損傷を受けて欠損した状態が、胃潰瘍といわれるものです。傷が浅い状態は「びらん」と呼ばれ、胃粘膜の深い層までの深い傷となった状態が「潰瘍」と呼ばれます。通常、胃粘膜は粘液にて防御されているために、胃酸により損傷を起こすことはありません。しかし、胃酸分泌(攻撃因子)と胃粘膜保護機能(防御因子)のバランスが崩れることにより胃潰瘍は発生し、時に多発することもあります。そのバランスを崩す原因として、ストレスや暴飲暴食、ピロリ菌感染、内服薬の副作用などがあげられます。胃潰瘍は制酸剤の内服治療で一般的には改善しますが、そのうち重篤なものとして「出血性胃潰瘍」と「胃潰瘍穿孔」があげられます。出血性胃潰瘍では内視鏡による止血術が、胃潰瘍穿孔では緊急の開腹手術による治療が必要になることがあります。また、胃癌による悪性の「がん性潰瘍」も注意が必要です。胃癌はいろいろな形態をとりますが、潰瘍面を有するものがあり、癌細胞が存在する悪性の潰瘍は、一般的な良性の胃潰瘍と異なり癌に対する治療が必要になります。がん性潰瘍は症状だけでは良性の胃潰瘍と見分けがつきません。内視鏡による観察と、内視鏡検査時に組織採取をして行う病理検査にて癌細胞の有無を確認し、適確に診断治療することが必要になります。

 


胃潰瘍の症状

  • 上腹部痛(みぞおち付近の痛み)
  • 吐き気や嘔吐
  • 胸やけ
  • 食欲不振
  • 吐血や下血
  • 真っ黒い便(黒色便)
  • 背中の痛み  など

胃潰瘍の原因

①ピロリ菌感染

胃潰瘍や十二指腸潰瘍の原因として、ピロリ菌感染があげられます。ピロリ菌感染がある場合には、難治性の胃潰瘍を発症したり、またしばしば胃潰瘍や十二指腸潰瘍を再発しやすくなります。またピロリ菌感染のために胃癌の発生率が上がることも知られています。ピロリ菌の除菌治療は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の再発防止や、胃癌の発生抑制にもつながるために、まずはピロリ菌に感染しているかどうかの検査をお勧めしますし、ピロリ菌感染状態であれば、可能なら除菌治療を行う方が賢明です。

参考ブログ:ピロリ菌感染 慢性胃炎

      十二指腸潰瘍 胃癌

②生活習慣やストレス

胃酸過多の状態となったり、粘液が不足して防御機能が低下したりすると、胃酸により胃粘膜が消化され、潰瘍ができてしまいます。胃酸の分泌や消化管の機能は自律神経によりコントロールされているため、ストレスなどの影響を受けることも多く、環境の変化などが引き起こすストレスにより、胃内の胃酸分泌(攻撃因子)と胃粘膜の働きによる防御機能(防御因子)のバランスが崩れることも、胃潰瘍発症の原因となります。

  • 心理的なストレス
  • 睡眠不足
  • アルコールやカフェインの過剰摂取
  • バランスの取れていない食生活
  • 暴飲暴食
  • 過度な喫煙   など

③薬の副作用

頭痛や生理痛などの時に痛み止めとして使用されたり、解熱剤として使用される解熱鎮痛薬(NSAIDS)には粘膜障害作用があり、胃に負担がかかるために、胃の状態が芳しくないときには服用に注意が必要です。またリウマチなどの自己免疫疾患などで使用されるステロイドなどの薬も、胃に負担となることがあります。


胃潰瘍の検査と診断

胃潰瘍の診断はバリウム検査や内視鏡検査で行います。近年は潰瘍を直接観察し、胃潰瘍の状態を把握・評価することができ、細胞の摂取もできる内視鏡検査が行われることがほとんどです。胃潰瘍の主原因であるピロリ菌感染の検査も、内視鏡検査時に同時に行うことが可能です。良性の胃潰瘍であれば、多くの場合は制酸剤などの治療で改善しますが、胃癌によるがん性潰瘍の場合、胃癌に対する治療が必要になるため治療方針が全く変わってきます。胃癌による潰瘍でないかを確実に診断するには、内視鏡検査で生検による検査を施行することで胃潰瘍の組織を採取し、病理検査で癌細胞が存在しないか調べる必要があります。そのためにも、胃カメラによる内視鏡検査が必要になります。

また、胃潰瘍ができた場所に、たまたま血管があった場合、出血性胃潰瘍といって潰瘍から出血したり、露出血管が潰瘍面に顔を出して見えることもあります。出血性胃潰瘍は大量吐血や大量下血などの重篤な病態の原因となることがあり、潰瘍からの激しい出血や露出血管が確認されれば、内視鏡により止血効果のある薬を直接潰瘍に注射したり、クリップといわれる小さな金属性の洗濯ばさみのような器具で出血部位や露出血管を挟んで止血するなど、内視鏡的な止血術も行うこともあります。


胃潰瘍の治療

胃潰瘍に対する治療は、現在では効果的な薬が開発されており、制酸剤を1か月から2か月程度きちんと内服することで、胃潰瘍はよくなることがほとんどです。制酸剤以外にも、粘膜保護薬もしばしば併用されます。また胃潰瘍の主原因であるピロリ菌感染を起こしている場合、ピロリ菌に対する薬を1週間内服することで、高い確率でピロリ菌の除菌を行うことができます。ピロリ菌の除菌をすれば、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の再発を大幅に減らすことができ、さらに胃癌の発生率も下げることができます。

ただし出血性胃潰瘍の場合には、上記の説明の様に内視鏡的な治療や処置が必要になることもあります。黒色便といわれる真っ黒い便(少し色が濃い程度ではなくて、アスファルトの様に真っ黒な便)は、胃や十二指腸からの出血が胃酸で変色し便に混じったために、真っ黒になるものです。吐血や黒色便の症状がある場合には、出血性胃潰瘍や出血性十二指腸潰瘍の可能性があるため内視鏡検査が必要で、活動性の出血が認められれば内視鏡的な止血術で治療を行います。また胃潰瘍穿孔の場合には、腹部CTなどの検査を行ったうえで、緊急の外科手術による治療が選択されることが一般的です。