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十二指腸潰瘍

十二指腸潰瘍

十二指腸潰瘍とは

十二指腸は、口から入った食べ物が胃を通った後に通るところで、胃と小腸の間にあります。指を12本並べた程度の長さがあるため十二指腸という名前がついています。胃に入った食べ物は、胃の中にある強い酸の胃酸によって消化されますが、その胃酸が十二指腸の粘膜を傷つけ、深い傷となるっている状態が十二指腸潰瘍です。胃酸の影響により潰瘍ができるため、十二指腸潰瘍は多くの場合、胃に最も近い十二指腸球部に発生します。十二指腸潰瘍の発生には胃酸過多が大きく関係しており、胃酸分泌が活発な20~40歳台の若い人に好発します。症状も、典型的な胃潰瘍では痛みなどの症状が食後に悪化しますが、典型的な十二指腸潰瘍では空腹時や早朝に症状が強く出ることが多く、食事摂取で痛みが緩和します。十二指腸潰瘍の原因としては、胃潰瘍以上にピロリ菌の関与が指摘されています。また十二指腸の壁は胃壁に比べて筋層が薄く、潰瘍により壁に穴が開く穿孔が起こりやすい傾向があります。重篤な十二指腸潰瘍としては、胃潰瘍と同様に「出血性潰瘍」や「潰瘍穿孔」があり、出血性潰瘍では内視鏡的止血術が、十二指腸潰瘍穿孔では外科的手術が必要になることもあります。胃潰瘍とは異なり十二指腸潰瘍では癌性潰瘍の頻度は少なく、十二指腸潰瘍の多くは、癌の関与のない良性潰瘍です。


十二指腸潰瘍の症状

十二指腸潰瘍の症状としては、胃潰瘍と同様に上腹部の痛みや、むかつきは吐き気などがあげられますが、典型的には、空腹時や早朝に症状が悪化し、食べ物を摂取することで症状が軽減する傾向があります。

  • 上腹部痛(みぞおち付近の痛み)
  • 胸やけ
  • 吐き気や嘔吐
  • 食欲不振
  • 吐血や下血
  • 真っ黒の便(黒色便)
  • 背部痛 など

十二指腸潰瘍の原因

①ピロリ菌感染

胃酸分泌が過剰になることで十二指腸潰瘍は発生しますが、胃酸過多を起こす最も主要な原因がピロリ菌感染です。十二指腸潰瘍の患者さんでは、胃潰瘍の患者さん以上に高率でピロリ菌感染を起こしていることが知られており、約97%以上の感染率ともいわれています。ピロリ菌が持続感染していると、潰瘍が難治性となったり、また胃潰瘍や十二指腸潰瘍の再発も起こしやすくなります。また、ピロリ菌感染により胃癌の発生率も上昇することが知られています。ピロリ菌の除菌治療は、潰瘍の再発防止や胃癌の発生抑制に有効であるため、ピロリ菌が感染している場合にはできる限り除菌治療を選択します。

参考ブログ:ピロリ菌感染症 胃潰瘍

②生活習慣やストレス

胃酸過多を起こしうるものとして、ピロリ菌以外にストレスや生活習慣の影響があります。胃粘膜からの胃酸分泌などの消化管機能は、自律神経によりコントロールされているために、ストレスなどの影響を受けることが多く、環境変化などの心理的な要因も、胃潰瘍と同様に、十二指腸潰瘍の原因となることがあります。

  • 心理的なストレス
  • 睡眠不足
  • アルコールやカフェインの過剰摂取
  • バランスの取れていない食生活
  • 過度の喫煙   など

③薬の副作用

頭痛や生理痛の時に痛み止めとして使用されたり、発熱時に解熱剤として使用される解熱鎮痛剤(NSAIDS)には、消化管の粘膜障害作用があり、胃と同様に十二指腸にも負担になることがあります。胃や十二指腸の状態が芳しくないときには、解熱鎮痛剤の使用は最小限にとどめる方が無難です。また、リウマチなどの膠原病や、自己免疫疾患などで使用されるステロイドなどの薬も、消化管粘膜にとって負担となるものがあります。


十二指腸潰瘍の検査と診断

十二指腸潰瘍の診断はバリウム検査や内視鏡検査で行いますが、近年では情報量の多い内視鏡検査が選択されることが多いです。内視鏡検査では、胃粘膜の組織を一部採取することで、十二指腸潰瘍の主原因であるピロリ菌感染の有無も調べることも可能です。十二指腸潰瘍は十二指腸球部と呼ばれる、胃から入ってすぐの十二指腸にできやすく、胃潰瘍と異なり癌によるがん性潰瘍のことがほとんどありません。また、十二指腸潰瘍ができた部位に血管があると、潰瘍面から出血する出血性潰瘍となることがあり、出血性の十二指腸潰瘍は、大量の吐血や下血の原因となることがあります。潰瘍面からの活動性の出血や露出血管が見られる場合、止血効果のある薬剤を内視鏡を使って潰瘍に直接注射したり、クリップと呼ばれる金属製の小さな洗濯ばさみのような器具で、出血部位や露出血管を挟み込む内視鏡的な止血処置が必要になることもあり、出血性潰瘍の場合は検査中にそのまま内視鏡的な治療を行うこともあります。ただし、潰瘍の頻発部位の十二指腸球部は胃内と比べ空間が狭いため内視鏡の操作性が悪く、時に内視鏡治療に難渋することもあります。


十二指腸潰瘍の治療

十二指腸潰瘍は癌性潰瘍の可能性がほとんどないこともあり、多くの場合は制酸剤を4週間から6週間きちんと内服することで、ほとんどの十二指腸潰瘍は改善します。制酸剤以外に粘膜保護薬もしばしば併用されます。十二指腸潰瘍では、胃潰瘍以上にピロリ菌の感染が関与しているといわれています。ピロリ菌感染を認めた場合、ピロリ菌に対する除菌薬をきちんと1週間内服することで、80%から90%の確率でピロリ菌の除菌を行うことができます。ピロリ菌の持続感染は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の再発率を上昇させ、胃癌の発生率も上昇させるため、できる限り除菌をすることがよいと考えられます。

また、吐血をしたり、下血や黒色便(少し色が濃い目といった程度ではなく、アスファルトの様に真っ黒な便)を認めた場合は、出血性潰瘍の可能性があります。このような症状がある場合には内視鏡検査が必須であり、活動性の出血がある場合、上記のような内視鏡での止血術が必要になることもあります。また、十二指腸潰瘍の穿孔の場合には、腹部CTなどの精密検査を行ったうえで、多くの場合には緊急手術による外科的治療が選択されます。