大腸憩室(憩室出血・憩室炎)
大腸憩室とは
憩室とは、消化管の壁の一部が外側に袋状に飛び出したものをいい、食道や胃、小腸や大腸と、どの消化管にも起こることがありますが、その中で大腸憩室が最も頻繁に見られます。大腸憩室は珍しいものではなく、統計では約25%程度の人にあるといわれ、大腸の中でも上行結腸とS状結腸にできやすく、しばしば多発します。大腸憩室は、腸管の蠕動運動により腸管内圧が高くなると、大腸壁の薄く弱い部分が外側に押し出されて膨らむことにより後天的にできると考えられています。大腸憩室はあっても大半は無症状で、存在すること自体は病気ではありません。しかし、大腸憩室に糞便が貯留し内部で細菌感染による炎症が発生すると「憩室炎」を起こし、腹痛や発熱などの原因となることがあります。憩室炎は、多くは抗生剤の使用などの保存的治療で改善しますが、炎症が高度になると腸管穿孔をおこし、瘻孔や膿瘍形成をおこしたり、炎症により腸管の狭窄をきたすこともあり、場合によっては外科的手術が必要になることもあります。また、大腸憩室の血管から出血をすると下血をきたし、これが「憩室出血」です。憩室出血は、安静により自然止血することが多いものの、時に大量下血を認めることがあり、内視鏡的治療などの止血治療が必要になることもあります。
大腸憩室の症状
大腸憩室は、珍しいものではなく統計上は25%程度の人にあるといわれいます。憩室があっても、たいていの人は無症状で生活されており、大腸憩室があるだけでは特に病気ではなく治療の対象にはなりません。ただし、憩室内に糞便が貯留したりして細菌感染を起こすと、炎症による憩室炎を発症することがあります。憩室炎では、腹痛や発熱などの症状を認め、炎症を起こした憩室の部位に圧痛を認めます。憩室炎が高度になると、周囲に膿が溜まる膿瘍形成や、腸管穿孔(腸管に穴が開くこと)を起こし、広範囲に腹膜炎を発症すると症状は強くなります。また時に大腸憩室から出血することがあり、これを憩室出血といいます。憩室出血は、突然の下血で発症することが多く、腹痛や発熱を伴わないことが多いです。憩室出血の場合には、ある程度の量の下血を認めることも多く、痔疾患などの出血との鑑別が必要になることもあります。出血量が多いと便の周りに血がついているという感じの血便より、血液の中に便が混ざっているというような感じの下血になることも多いです。
大腸憩室の原因
大腸憩室は、腸管の蠕動による腸管内圧の上昇に負けて、大腸壁の薄い部分が腸管の外側に袋状に出窓のように飛び出すことにより発生すると考えられ、西洋人に多く、日本人でも昔に比べて発生率が上昇しているという報告があります。大腸憩室の発生には、腸管内圧の上昇の原因となる腸管蠕動の亢進や、加齢による腸管壁の脆弱化などがかかわっていると考えられ、食生活の西洋化なども発生率上昇の一要因として挙げられています。大腸憩室は、右側腹部の上行結腸と、骨盤内を走行するS状結腸に頻発します。その袋状に飛び出した出窓のような大腸憩室の空間に、糞便などが溜まり細菌感染を起こすことで憩室炎は発症します。また、大腸憩室の壁は薄く、そのため内圧上昇や炎症などの刺激により憩室内にある血管が切れて出血することにより、憩室出血が起こると考えられています。
大腸憩室の検査と診断
大腸憩室の有無は、しばしば大腸のバリウム検査や内視鏡検査にて指摘されます。大腸憩室はそれ自体は病気ではありませんが、細菌感染を起こし憩室炎を発症すると腹痛や発熱を認めます。憩室炎が疑われる場合、腹部エコーや腹部CTなどの画像検査で炎症により腫れている憩室を見つけることで、憩室炎の確定診断を行います。腹部エコーでは、大腸から突出して腫れた憩室が描出されたり、憩室周囲の大腸壁が炎症のため肥厚する像が描出されます。時に虫垂炎と同様に、憩室内で便が固まってできた噴石が白く見えたり、腸管穿孔による瘻孔や膿瘍が黒く見えることもあります。エコーでは気体の裏側は見えず、腸管ガス背側の憩室は描出できません。CTでは腸管ガスの影響を受けず憩室炎を評価できますが、時には虫垂炎や卵巣・卵管の炎症と憩室炎の鑑別に苦慮することもあります。血液検査では炎症の程度は評価できますが、憩室炎に特有の血液検査項目はなく、血液検査だけでは憩室炎の確定診断はできません。憩室出血が疑われた場合、内視鏡検査で確定診断されることが多いものの、大腸憩室はしばしば多発し、どの憩室が出血源であるか同定困難なこともあります。ただし、出血が疑われる憩室が内視鏡検査で同定できた場合、内視鏡による止血を行うこともあります。
参照ブログ:超音波検査(大腸①)
憩室炎・憩室出血の治療
大腸憩室はあるだけでは治療の対象にはなりませんが、憩室炎や憩室出血を起こした場合には治療が必要になります。
憩室炎は抗生剤投与などの保存的治療により、たいていの場合は改善しますが、炎症が高度になり膿瘍形成や腸管穿孔を起こすと、外科的手術が必要になることもあります。保存的治療で改善した場合でも、後に憩室炎を再発をすることがしばしばあり、頻繁に再発することで社会生活が困難になる場合には、憩室がある大腸の一部を手術により切除する外科的治療を行うこともあります。
憩室出血は自然止血することが多いものの、時に大量出血をきたすこともあります。憩室出血では、血管からの出血が出たり止まったりを繰り返していることも多く、また大腸憩室はしばしば多発するため、内視鏡挿入時に出血部位を同定するのに難渋することもあります。内視鏡検査にて出血している憩室が同定された場合、出血源の憩室に止血剤を直接局所注射したり、クリップという小さな金属の器具で出血の原因となっている憩室の血管を挟んで止血する内視鏡的止血術が行われることもあります。憩室出血もしばしば再発するため、頻回に再発する場合には、出血をきたす憩室がある部分の大腸を一部切除する外科的手術が選択されることもあります。