· 

下痢

下痢

下痢とは

下痢とは水分を多く含んだ軟便や水様の便がでる症状で、いろいろな原因で起こります。下痢はその持続期間により、①発症して2週間以内の急性下痢と、②4週間以上持続している慢性の下痢に分けられます。急性下痢でもっと多いものは、ウイルスや細菌などの微生物による感染性胃腸炎による下痢です。ウイルス性腸炎では十分な水分摂取を心がけ、お腹に優しい食事をする保存的治療で改善しますが、粘膜障害の強い一部の細菌性腸炎では抗生剤による治療が必要になることもあります。虚血性大腸炎を発症した時には、血便を伴う急性の下痢をしばしば認めます。また、摂取した薬剤や食品などの影響により急性下痢が起こることもあります。4週間以上持続する慢性の下痢は、様々な病気で起こりますが、慢性下痢の原因として頻度が高いものとして、ストレスや不安などがその増悪因子となる過敏性腸症候群があげられます。血便を伴う慢性の下痢では、重篤な疾患の可能性があるため内視鏡での検査が必要になります。炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)は体の免疫機能が関与した腸炎で、若い人にも発症することがあり的確な診断と継続した治療が必要になります。また高齢者で便秘や下痢を繰り返す人には、大腸癌が下痢の原因になっていることがあり注意が必要です。


下痢の症状と原因

下痢の性状には、水分量が増加している軟便、泥のような泥状便、ほとんど水のような水様便、ドロッとしたゼリー状の粘液が付着した粘液便や、粘液に血液が混ざった粘血便などがあります。水分を多く含む泥状便や水様便を排出する下痢では、腸管の蠕動運動が亢進していることが多く、亢進した腸管蠕動による波のある腹痛を認めることも多いです。急性の下痢では感染性胃腸炎が原因のことが多く、感染性腸炎の中ではウイルス性胃腸炎が多いものの、血便を伴う急性腸炎では腸管の粘膜障害が強い病原性の高い細菌による腸炎のことがあり注意が必要です。慢性の下痢の場合は、血便を伴う時には炎症性腸疾患や大腸癌などの重篤な病気が原因のことがあるために、その原因精査のために大腸内視鏡による精密検査が必要になることもしばしばあります。

①急性下痢の原因

●感染性腸炎

感染性胃腸炎は口から侵入した微生物による腸管感染症で、ウイルス性腸炎では水様性下痢や嘔吐が主体の小腸型の腸炎を生じ、病原性大腸菌やキャンピロバクターなどの細菌性腸炎では大腸粘膜を障害し血便や粘血便を伴う大腸型の腸炎を認めることが多いです。また多くの感染性腸炎では急性下痢を生じるものの、アメーバー赤痢や腸結核など一部の微生物感染では慢性下痢を示すこともあります。

●腸管感染症以外の感染症

コロナウイルスやインフルエンザウイルスなどの気道感染を起こす呼吸器感染症でも下痢の症状を時に認めますが、軽症のことがほとんどです。インフルエンザやコロナウイルス感染の下痢では、発熱や咳、痰、咽頭痛などの上気道症状を併発することが多いです。

●虚血性大腸炎

一時的に大腸に流れる血流が低下することにより、大腸粘膜が障害され腹痛や血便をきたす病気です。便秘の人に多く、トイレできばって腹圧をかけて硬い便が出た後から腹痛を認め、その後に血便や血便を伴う下痢が出てくるといった病状経過が典型的です。虚血性大腸炎では、内服薬で排便状態のコントロールを行い、消化のよい食事をして腸管の安静を図る保存的治療で改善することがほとんどです。

●非感染性物質の経口摂取(食べ物や薬)による急性下痢

アルコールや辛いものなどの刺激物や、キシリトールなどの人工甘味料を多量に摂取することで急性の下痢を発症することがあります。また下剤、抗生剤、制酸剤、抗がん剤などの薬物摂取でも急性下痢を発症することがあります。これらの物質の経口摂取で急性の下痢を発症する場合には、原因物質の摂取中止にて症状はすみやかに改善することがほとんどです。

②慢性下痢の原因

●過敏性腸症候群

過敏性腸症候群は内視鏡検査で器質的な腸管の異常は認めないものの、腸管の蠕動運動がスムーズに作動しないことで慢性的に下痢や便秘、腹痛などの症状を認める病気で、不安やストレスが症状を悪化させることもあります。過敏性腸症候群は生死にかかわるような疾患ではありませんが、炎症性腸疾患や大腸癌などの器質的な疾患との鑑別のために内視鏡検査での検査が必要になることがあります。

●炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)

潰瘍性大腸炎やクローン病は、現在の医学でも完全にはその原因は解明されていないものの、人体の免疫の働きが関与することで発症すると考えらており、若い人にも発症します。潰瘍性大腸炎は肛門近くの直腸から口側の大腸粘膜に連続したびらんや潰瘍を認め、血便や下痢、腹痛を生じる疾患です。クローン病は食道から肛門に至る消化管に非連続性に炎症性変化を生じる疾患です。ともに特定疾患に指定されている難病で、炎症性腸疾患が疑われる場合は内視鏡検査などによる的確な診断と継続した治療が必要になります。

●大腸癌

大腸癌では通常は便秘になりますが、大腸癌の人の中に下痢と便秘を繰り返す人がいます。大腸癌により腸管内腔が狭窄し、便が通過困難になると便秘となり、その狭窄部を便を通過させるために腸管運動が亢進すると腹痛を認めたり下痢を認めたりすることがあります。血便を伴うこともあるものの肉眼では判別困難なことも多く、特に高齢の方は注意が必要で内視鏡検査での精密検査が必要です。

下痢の検査と診断

下痢の原因を推定するには、症状の病状経過や、下痢以外に腹痛や血便や発熱などの併発する症状の有無などが重要になってきます。超音波検査では気体の裏側はエコーで描出できないため、内部にガスを含んでいる腸管の観察は困難なことも多いものの、腸に大きな異常がある場合は病変を描出できることもあります。超音波検査は来院された患者さんにその場で手軽に行えることから、エコーでまず腹部を観察することで下痢の原因推定に役立つことがあります。急性下痢で血便を伴わない水様性の下痢ではウイルス性腸炎のことが多く、ウイルス性腸炎では小腸内に腸液を貯留した像がエコーで確認されます。細菌性腸炎の場合は、深部大腸の壁肥厚を伴う大腸型腸炎のことが多くしばしば血便を伴います。感染性腸炎における原因微生物の同定検査は一般的な腸炎では行いませんが、腸管の粘膜障害が高度で治療期間が遷延しそうな時は行うこともあります。虚血性大腸炎では典型的な発症様式と共に、好発部位である下行結腸からS状結腸にかけて連続性の壁肥厚がエコーで確認されれば、ほぼ確定診断となります。慢性下痢の原因精査では、病状経過などから過敏性腸症候群と診断できることもあるものの、大腸内視鏡検査を行い各疾患を診断することが必要になることも多いです。


下痢の原因となる病気の治療について

下痢をきたす疾患の治療法はその原因により異なりますが、原因がどの疾患でも下痢症状が強い時には、一時的に絶食とし腸管の安静を保つことは有効です。ただし、下痢の時には脱水になりやすく、スポーツドリンクや経口補水液などで十分な水分を摂取することが重要です。感染性腸炎における下痢症状は、体に不要なものを体外に排出する自己防衛の働きでもあるため、止痢剤で下痢を止めると体内に病原微生物や毒素がこもってしまい良くありません。あまりに頻回の下痢の場合には少量の止痢剤を使用することもあるものの、感染性腸炎では基本的に整腸剤の内服と十分な水分摂取により多くの場合改善します。ただし一部の細菌性腸炎や寄生虫による腸炎に対しては、抗生物質の内服治療が必要になることもあります。また、食物や薬物による急性腸炎の場合は、原因物質の摂取中止により数日から1週間程度で症状は改善します。過敏性腸症候群による慢性下痢の場合には、食事や運動などの生活習慣を整え、ストレスや過度な疲労となる要因を避けるとともに、内服薬での治療も行います。潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患では寛解・再燃を繰り返すことも多く、継続した治療で炎症を抑え寛解状態をなるべく維持することが必要です。大腸癌では病巣の広がりを各種検査で評価し、全身状態なども考慮し最善の治療法を選択します。