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吐血(血を吐いた)

吐血 (血を吐いた)

吐血(血を吐いた)とは

吐血とは、口から血が出てくる症状のうち胃や食道などの食べ物の通り道の方から出血することを吐血と言います。口の奥は食べ物が通過する食道と、息をした空気が通過する気管に分かれています。食道は胃につながり食べ物の通り道となっていますが、気管は胸部にある肺につながっています。肺や気管の方からの出血は「喀血」と呼ばれ、吐血とは区別されています。患者さんが「血を吐いた」と受診された時、食べ物の通り道から出血している「吐血」なのか、空気の通り道から出血している「喀血」なのかは、患者さんの症状である程度予想できます。嘔吐した吐物の食物の中に血液が混入している場合は「吐血」のことが多く、一方で咳をした後などに出た痰に血が混じったり、泡状の血液が出る場合は、「喀血」のことが多いです。それ以外に口からの血液排出には、鼻出血が口の中に流れ込んだり、口の中が少し切れたり、咳のしすぎで喉の奥で少しにじんだ血液が唾液とともに出たりといった、口腔内や鼻腔からの出血が原因のこともあります。吐血が疑われる場合には、その原因精査のためにしばしば内視鏡検査が必要になります。喀血が疑われる場合には呼吸器科での精査が、口腔内や鼻腔からの出血が疑われる場合には耳鼻科での検査・治療が必要になることもあります。


吐血の症状と原因

吐血とは食べ物の通過する消化管からの出血で、重篤な疾患によることもあるため注意が必要です。吐いた食べ物の中にごく少量の血液が混入している程度の軽度出血であれば緊急性がそこまで高くないことが多いものの、食物残渣が少量で吐いたもののほとんどが血液成分でコップ一杯以上の量の血液を吐くような吐血の場合には、緊急性のある出血のことも多く早急な受診が必要です。胃潰瘍や十二指腸潰瘍からの出血では胃酸に血液がさらされるため暗赤色から褐色のことが多いものの、大量出血では真っ赤な新鮮血のこともあります。肝硬変の患者さんでは食道や胃に静脈瘤ができることがあり、胃・食道静脈瘤破裂が原因の吐血では大量の新鮮血の吐血を認めることがあります。また、胃と食道の境界部に裂創ができて吐血するマロリーワイズ症候群と言われる疾患では、何度か嘔吐した後に吐物の中に血液が混じってくるという病状経過が特徴的です。

胃潰瘍

胃内にできた胃潰瘍からの出血で、大量出血をきたすこともあります。ピロリ菌感染やストレスが胃潰瘍の発症に関与していることも多く、腹痛や食欲不振、黒色便などの吐血以外の症状を伴うこともしばしばあります。

●十二指腸潰瘍

十二指腸球部は潰瘍ができやすく大量出血をきたすこともあります。十二指腸潰瘍は胃潰瘍よりも胃酸分泌の活発な若い患者さんに発症する傾向があり、ピロリ菌感染が十二指腸潰瘍の発生に関与していることも多いです。空腹時の腹痛を伴うこともしばしばあります。

●マロリーワイズ症候群

飲酒後の嘔気や、耳鼻科疾患などによるめまいに伴う嘔吐、妊娠中のつわりで起こる嘔気などで、何度か嘔吐した後に吐物の中に血液が混入してくるといった病状経過をとります。何度か嘔吐した時に腹圧上昇が食道に加わることで、下部食道や胃の入り口付近が切れて消化管出血をきたす病気です。自然止血することが多いものの、重篤な場合には稀に内視鏡による止血が必要になることもあります。

●胃癌や食道癌などの悪性腫瘍

胃癌や食道癌などの悪性腫瘍からの出血により吐血を認めることも稀にあります。悪性腫瘍により吐血の症状を認める時には、腫瘍がある程度の大きさになっていることが多く、進行癌のことがほとんどです。

●胃・食道静脈瘤の破裂

肝硬変の患者さんでは胃や食道に静脈瘤ができることがあります。静脈瘤があるだけでは吐血は起こりませんが、静脈瘤が破裂すると新鮮血を大量に吐く重篤な吐血を認め、血圧低下するような重症の吐血となることもしばしばあります。肝硬変が基礎疾患にある方で大量の新鮮血を吐血する時には胃・食道静脈瘤の破裂の可能性があり、多くの場合専門病院での入院治療が必要になります。

●その他の疾患

それ以外に逆流性食道炎などの食道炎、食道潰瘍、急性胃粘膜病変などの病気でも、ごく稀に吐血の原因となることがあります。

吐血の原因となる病気の検査と治療について

吐血を認めたときには、血液検査で貧血の程度を見ることでその重症度を推測することができます。マロリーワイズ症候群による吐血では自然止血することも多く、吐血の量が多くなく病歴からマロリーワイズ症候群が強く疑われる場合は、胃薬などの内服と安静による保存的治療で経過観察が行わることも多いです。ただし実際には病歴だけでは胃潰瘍や十二指腸潰瘍からの出血と鑑別が難しいこともあり、吐血の患者さんでは原因精査のための内視鏡検査が行われることもあります。出血性の胃潰瘍や十二指腸潰瘍では、内視鏡時には自然止血していることもあるものの、自然止血していても潰瘍底に露出血管を認める場合には、その後に再出血する可能性が高くなります。活動性の出血をしていたり、露出血管を認める胃潰瘍や十二指腸潰瘍では、内視鏡による止血処置が行われたり、しばしば入院治療が必要になります。肝硬変が基礎疾患にある患者さんの大量吐血では、胃や食道の静脈瘤破裂が原因のことがあり、静脈瘤破裂の場合には専門病院での止血治療と入院加療が必要となります。また、吐血をきたすような胃癌や食道癌では、原因となる癌はある程度大きくなった進行癌のことがほとんどで、各種精密検査で病変の広がりなどを十分評価し、患者さんの全身状態なども考慮したうえで最適な治療方法を選択してゆくことが必要になります。