超音波検査「腹水①」
お腹の中の臓器は腹膜という膜につつまれており、その腹膜と腹膜の間の空間である腹腔内には各臓器の摩擦を少なくするために、正常でも腹水という少量の液体が20ml~50ml程度存在しています。正常の人の腹水は少量なので、エコーでは多くの場合見えませんが、病気により腹水が増加するとエコーで観察されることがあり、逆に腹水がエコーで見えるとそれが病気の診断の手掛かりになることがあります。仰向けに寝て行う腹部エコーでは、肝臓と右腎臓の間の空間(モリソン窩)や、脾臓の周囲、子宮背部と直腸前面の空間(ダグラス窩)などは腹水が貯留しやすい場所です。①はモリソン窩周囲の正常エコー画像で、肝臓(白色矢印)と腎臓(青色矢印)の間に腹水は見えません。②,③では肝臓(白色矢印)と腎臓(青色矢印)の間のモリソン窩に、腹水(赤色矢印)がエコーで黒色に確認できます。④は脾臓周囲の腹水の画像です。腎臓(青色矢印)と脾臓(緑色矢印)が並んで見え、白色曲線状の横隔膜(桃色矢印)と脾臓(緑色矢印)の間に腹水(赤色矢印)が黒く見えます。また横隔膜(桃色矢印)の頭側に胸水(水色矢印)も黒く見えます。⑤でも脾臓(緑色矢印)と腎臓(青色矢印)の間に腹水(赤色矢印)が黒くエコーで確認できます。
⑥は正常女性の下腹部のエコー画像で、子宮(黄色矢印)と膣(灰色矢印)の周囲に腹水は見えません。⑦では子宮(黄色矢印)の背側のダグラス窩にエコーで黒色の腹水(赤色矢印)が確認できます。この子宮の背側で直腸前面の空間はダグラス窩と呼ばれ、腹水が貯留しやすく、腹水貯留を確認しやすい場所です。エコーで腹水を認める原因は様々ですが、肝硬変や腎不全では血液内のタンパクが減少し血管内の浸透圧が低下することで血液中の水分が腹腔内に漏れ出て腹水を生じ、これは低密度の薄い腹水で漏出性腹水と呼ばれます。一方、腹腔内の炎症や腫瘍により腹膜の透過性が亢進すると、血液成分や腫瘍成分を多く含んだ高密度の濃い腹水を生じ、これは浸出性腹水と呼ばれます。それ以外に、腹部臓器からの腹腔内出血も、腹水の貯留像としてエコーで確認されます。エコーで多量の腹水が確認される時は、何らかの病気により腹水貯留が起きていることが多いものの、女性のダグラス窩周囲の少量腹水は病的でないこともしばしばあり、これは生理的な排卵周期に伴う一時的な腹水で異常所見ではありません。⑧~⑩はいずれも、正常な女性に見られた少量腹水の画像で、子宮(黄色矢印)の周囲に少量の腹水(赤色矢印)がエコーで黒く確認できます。
⑪~⑯はアルコール性肝硬変のために腹水の貯留が見られた同一症例のエコー画像です。肝硬変は肝臓に慢性的な炎症が継続することで肝臓のダメージが進行し、その損傷が高度で元に戻らないほど悪化した状態で、肝炎ウイルスや自己免疫性、あるいはアルコールの大量飲酒などが原因となります。肝硬変になると血液中の蛋白質が低下して低栄養となり、また肝臓が硬化し肝臓に流入する門脈という血管の内圧が上昇することで、腹腔内に漏出性腹水を生じます。⑪~⑯はアルコール性肝硬変の同一エコー像ですが、⑪,⑫に見られる肝臓(白色矢印)は肝硬変のために辺縁が凸凹で不整で、肝臓内部も濃淡にムラがあります。また腹腔内には多量の腹水(赤色矢印)がエコーで真っ黒に見えています。⑫では真っ黒な腹水(赤色矢印)の中に胆嚢(緑色矢印)が浮遊して見え、⑬ではモリソン窩から腎臓(青色矢印)の前面にかけて高度に貯留した腹水(赤色矢印)が確認できます。⑭,⑮ではダグラス窩に高度に貯留した腹水(赤色矢印)が黒く見え、その中に小腸(紫色矢印)が浮遊して見えています。肝硬変や腎不全などで生じる漏出性腹水では、その密度が高くないことなどから腹水はエコーで見ると真っ黒に抜けたような像として見えることが多いです。
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