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背部痛(背中の痛み)

背部痛(背中の痛み)

背部痛(背中の痛み)とは

背部痛はいろいろな病気が原因でおこります。腹部の臓器のうち、胃や肝臓、小腸などの臓器は前面が腹膜と呼ばれる薄い膜でおおわれていて、腹腔内臓器と呼ばれます。一方、後腹壁の後ろにあり表面の一部しか腹膜で覆われていない後腹膜臓器に起こる病気では、炎症が起こると腰背部に痛みを生じやすく、後腹膜臓器である膵臓、十二指腸、腎・尿管、下大動脈、大腸の一部などに起こる病気で背部痛を認めることがあります。そのために、膵炎や膵臓癌、十二指腸潰瘍などの消化器疾患、尿管結石や腎盂腎炎などの泌尿器疾患でしばしば背部痛を生じます。また、体動や体位により痛みが増減する背部痛では、急性腰痛や椎間板ヘルニア、椎体圧迫骨折など骨や筋肉や神経などに原因がある整形外科領域の痛みのことが多く、頻度的にも腰背部痛の原因が整形疾患のことは良くあります。それ以外にも心筋梗塞や解離性大動脈瘤のような心・血管病変や、胸膜炎や気胸などの呼吸器疾患、背部に生じた帯状疱疹でも背部痛の原因になることがあります。そのため、背部痛の診断では、痛みの場所や性状、背部痛に付随する胸痛や腹痛や発熱など他の症状の有無や、病状経過などからその原因を絞り込み、各種検査を行って適切な診断と治療を行うことが必要になります。


背部痛の症状と原因

背部痛は色々な病気で起こりますが、大きく分けて①消化器の病気、②泌尿器の病気、③整形外科領域の病気、④それ以外の原因によるもの、に分けることができます。腹部の後腹膜臓器である膵臓、十二指腸、腎・尿管、下大動脈、大腸の一部などの病気が背部痛の原因となり、消化器の病気としては十二指腸潰瘍や膵炎、膵臓癌などで背部痛が見られますが、胆石による痛みでも右背部痛を認めることがあります。また、尿管結石や腎結石、腎盂腎炎など泌尿器の病気でも、しばしば背部痛を認めます。しかし、背部痛の原因として最も頻度が高いのは、骨や筋肉や神経などが原因となる整形外科領域の病気による痛みです。背中の痛みが体位や体動により増強したり軽減する場合には整形的な病気が原因のことが多く、急性腰痛や椎間板ヘルニア、椎体圧迫骨折、椎体炎などの整形疾患では、専門の整形外科受診による診断と治療が必要になります。さらに、心筋梗塞や解離性動脈瘤などの心・血管病変でも突然発症の強い胸痛や腹痛、背部痛を認めることがあり、胸膜炎や気胸といった肺の病気でも胸痛や背部痛を生じることがあります。また、帯状疱疹では痛みを伴う発赤や水泡などの皮疹を生じますが、発症初期に皮疹が見られず自覚症状が痛みだけ場合には診断に苦慮することがあります。

①消化器の病気

●十二指腸炎や十二指腸潰瘍

十二指腸炎や十二指腸潰瘍は 胃酸による十二指腸粘膜に対する損傷で起こり、上腹部痛や嘔気、食欲不振、背部痛などの症状を認めます。胃に隣接している十二指腸球部は胃からの胃酸の影響で時に炎症が高度になりやすく、特に十二指腸球部後壁に潰瘍や高度の炎症を認めると右背部痛を生じることがあります。十二指腸潰瘍は胃酸分泌過多となった若者に起こりやすく、しばしばその発生にピロリ菌感染が関与しています。ピロリ菌感染がある場合には、再発予防や将来的な発癌予防の面でもピロリ菌に対する除菌治療が勧められます。

●逆流性食道炎

逆流性食道炎は、胃と食道の境界部を超えて胃酸が食道内に逆流することにより食道粘膜が障害されるために、吐き気やむかつき、上腹部の痛みを生じ、時に胸背部の痛みなどの症状を認めることもあります。生活習慣の改善や制酸剤の内服などの保存的な治療により症状が改善することが多いものの、難治性の場合には高度な食道裂孔ヘルニアなどの病態が関与していることもあります。

●急性膵炎

膵炎は膵臓が生成する消化酵素である膵液が活性化されることで膵臓自体や内臓が膵液で消化されてしまう病気で、強い上腹部痛や背部痛、吐気や嘔吐、発熱などを認めます。急性膵炎の患者さんでは、腹痛や背部痛のために背中をまっすぐ立てておくことが難しく、エビの様に体を丸めてうずくまる姿勢を取ってしまうこともあります。急性膵炎の原因として最多であるのは大量飲酒によるアルコール性ですが、胆石や膵管形成異常などにより膵炎を発症することもあります。

●膵臓癌

膵臓癌は膵臓に発生する悪性腫瘍で、進行してくると上腹部痛や背部痛、吐き気、食欲不振、体重減少、黄疸などの症状を認めますが、初期には自覚症状がないことがほとんどで、そのために早期発見することは容易ではありません。膵臓は腹部の深部にあることもあり、腹部エコーなどの画像検査で診断しにくいことも多く、しばしば診断に苦慮することがあるのも実情です。

●胆石や胆嚢炎などの胆道疾患

胆嚢内にできた結石が胆嚢頸部や総胆管に陥頓すると、右上腹部痛や背部痛、嘔吐などの症状を認めます。腹部の内臓神経に伝わった痛み刺激が別の場所の痛みとして勘違いして感じられる関連痛が胆石発作では起こることがあり、右肩に抜けるような背部痛を認めることもあります。典型的には脂肪分の多い食事をした後に、これらの症状を認め、また胆石があると胆嚢や胆管に細菌感染を起こしやすく、胆嚢炎や胆管炎を起こすと上腹部痛とともに高熱も生じ、敗血症を併発すると全身状態の悪化を認めることがあります。

●大腸憩室炎

憩室とは消化管の壁の一部が外側に袋状に飛び出したもので、大腸憩室が消化管の憩室のなかでは最も頻繁に見られます。この大腸憩室に糞便などが貯留し細菌感染を起こすことで憩室炎は起こります。大腸憩室は上行結腸とS状結腸にできやすいため、憩室炎は右側腹部と下腹部に発症しやすいものの、大腸憩室は全大腸に起こる可能性があります。後腹膜に位置する上行結腸や下行結腸の背側にできた憩室に憩室炎を発症すると、大腸憩室炎は稀に背部痛の原因になることがあります。

②泌尿器の病気

●尿管結石

尿管結石は腎臓から膀胱までの尿の通路である尿管に結石が詰まることで、腹痛や背部痛を生じる病気です。腎臓は左右の両背部にあり尿管結石の痛みは両側背部から下腹部に起こります。かなりの激痛となることも多いものの、基本的に命にかかわることはありません。結石が膀胱に落ちると症状は改善するため、まずは痛み止めを使用し結石が膀胱に落ちるのを待つ保存的治療を行いますが、専門の泌尿器科では難治性結石に対して、体外から超音波での結石破砕術や、尿道に挿入した内視鏡からの結石破砕術が行われることもあります。

●腎盂腎炎

腎盂腎炎は腎臓内の尿の集積場所である腎盂に細菌感染を起こし、高熱や、背部痛、嘔気・嘔吐の症状を認める病気です。腎臓がある側背部を叩くと、強く響く背部痛を認めます。軽症から中等症の腎盂腎炎では、抗生剤投与を一定の期間行うことで改善することが多いものの、免疫力が低下している人や高齢者の腎盂腎炎では、重症化して敗血症をきたし全身状態が悪化することもあり注意が必要です。

③整形外科領域の病気

背部痛の原因として最も頻度が高いのは、骨や筋肉や神経に原因がある整形外科的な疾患です。背中の痛みが身体の体位や体動により増強したり軽減する場合は整形外科的な病気が原因のことが多く、急性腰痛や椎間板ヘルニア、椎体圧迫骨折、脊柱管狭窄症、坐骨神経痛や脊椎椎体炎などの、骨や筋肉や神経に起こる整形疾患では、専門の整形外科を受診したうえで、レントゲンやMRIなどによる的確な診断と専門医による治療が必要になります。また、頻度的には非常に稀ではあるものの、癌の骨転移や多発性骨髄腫のような悪性疾患が骨に影響を及ぼす病気でも、骨に病変をきたすために身体の体位や体動により増減するような痛みを生じます。

④それ以外の原因による背部痛

さらに、心筋梗塞や解離性動脈瘤などの心・血管病変では突然発症の胸痛や背部痛を認めることがあります。心筋梗塞は心臓の筋肉に血液を供給している冠動脈が閉塞することで起こる病気で、強い前胸部痛や冷や汗、動悸を認めることが多いものの、関連痛により左背部に放散するような痛みを認めることもあり、また致死的不整脈や心不全、心停止を起こすこともあります。大動脈瘤の解離や破裂では、大動脈瘤の血管壁が突然裂けたり破裂するため、突然発症の激痛を胸腹部や背部に認めます。これらの心・血管病変による背部痛では、早急に専門の循環器内科や心臓血管外科での検査・治療が必要になります。胸膜炎、気胸といった呼吸器の病気でも胸痛や上背部痛を認めることがあり、呼吸器の病気ではしばしば咳や息苦しさ、低酸素などの呼吸器症状を伴うことも多いです。また、帯状疱疹では一般的には痛みを伴う発赤や水泡などの皮疹を生じますが、発症初期には皮疹が見られず自覚症状が痛みだけのことがあり診断に苦慮することがあります。帯状疱疹は体のどこにでも起こる可能性があり、背部に帯状疱疹が起こると背部痛の原因となることがあります。

背部痛の検査と診断

背部痛の原因となる病気は多岐にわたるため、背部痛以外の症状や痛みの性質、病状経過などから、ある程度原因を絞り込んだうえで各種検査を行うことで診断をします。十二指腸や、胆嚢・膵臓などの消化器の病気が原因で背部痛を認める場合には、吐き気や嘔吐、腹痛などの症状を随伴することも多く、また食事摂取などが症状の発症や増悪と相関関係を示すことも多いです。消化器の病気が原因として疑われる場合には、血液検査により肝臓や膵臓の異常や炎症の程度などを調べたり、腹部エコーや内視鏡検査などを行うことにより原因疾患と特定することになります。尿管結石や腎盂腎炎などの泌尿器の病気では腎臓がある背側部を叩くと強く響く痛みを感じることが多く、尿管結石では詰まった結石や、尿管が拡張した水腎症の所見がエコーで確認されることもあります。また、背部痛の原因として頻度が高いのは、筋肉や骨、神経などの整形外科的な病気があげられます。体動や体の姿勢などにより痛みの症状が増減する場合には整形外科的な病気が原因のことが多く、整形外科に受診のうえ専門医による診察と検査が必要になります。帯状疱疹は皮疹が見えれば診断は比較的容易ですが、皮疹が出現する前に痛みしか症状を認めない場合には、診断に苦慮することがあります。


背部痛の治療

背部痛の原因となる病気は多岐にわたり、その治療法は背部痛を起こすそれぞれの病気により異なります。胃潰瘍や十二指腸潰瘍、逆流性食道炎では、制酸剤の投与などによる保存的治療で改善することが多いものの、潰瘍穿孔を起こした場合には開腹手術による治療が必要になることも多いです。大腸憩室炎でも抗生剤による保存的治療で改善することが多いものの、腸管穿孔を起こしたり頻回に憩室炎を繰り返す場合には外科的手術が選択されることもあります。胆嚢炎や急性膵炎では絶食+点滴+抗生剤投与などによる保存的な治療が行われることもありますが、胆嚢炎では外科的手術が行われることもあり、また急性膵炎では重症化すると専門病院での集中治療が必要になることもあります。膵臓癌などの腹腔内の悪性腫瘍では、各種検査により病気の進行度を的確に評価し、患者さんの全身状態も考慮して最善の治療法を選択することになります。尿管結石は膀胱に結石が落ちると症状は改善するために、1㎝未満の結石では痛みがある時は痛み止めを使用し結石が自然落下するのを基本的には待ちますが、大きな結石や難治性の結石の場合は、専門の泌尿器科では経尿道的な結石破砕術や外科的治療が選択されることもあります。腎盂腎炎では抗生剤投与による保存的治療が選択されることが多いものの、尿の通過障害を伴う複雑性腎盂腎炎の場合には、専門の泌尿器科でステント挿入などの治療が必要となることもあります。また、整形外科的な病気による背部痛では専門の整形外科での精密検査・治療が必要であり、心筋梗塞などの虚血性心疾患や、動脈瘤の解離や破裂などといった血管病変が原因の場合にも専門の循環器内科や心臓血管外科での精査と治療が必要になります。